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しょんぼりしている私に、「私たちの最善をつくしたのだから、この子も許してくれるよ」主人の長い間の治療生活に対する労いの言葉でもありました。
「人事をつくして天命をまつ。いつもそうした気持ちで頑張ろう。それでいいんだ。くよくよすることはやめよう」。主人のこの言葉で、何か胸につかえていたものが、ふっきれたように思えました。
「あきらめる」ということを知ったのは、このときでした。「どうにもならないことだってあるんだ。後ろばかり見ていないで、前向きに頑張ることだ」ほんとうにそう思った瞬間、目の前がパッと明るくなったように思いました。「あきらめ」と「開き直り」の連動は、この子を育てる上で、とても重要なポイントになったように思います。
そのとき、長男は三歳を過ぎていました。この「やるぞ」と開き直って、長男をみつめると、今まで見えなかった物を発見することができました。
それは、長男が人なつっこくて、初めて会った人からも、とても可愛がられること。性格も滅法明るいこと。それに一度会った人や、出会った物などを忘れないで、相手もびっくりするほど抜群の記憶力のあることでした。
音が不明な分だけ、視覚を通した集中力が確かな記憶力となって働いているのでしょうか。開き直った私には、長男のこうした特性が発見できたのです。
さて、こうした特性をどう生かして行こうか。主人ともども手さぐりの家庭教育が始まりました。二男もいましたが、「二男は五体満足に揃っていて、自然に淘汰されるから大丈夫だ」

 

 

 

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